塾や学校から志望理由書が抽象的だと言われた方に向けて、その理由と具体化する直し方を、言い換え一覧とBefore→Afterの例文で解説します。
塾の先生から返ってきた志望理由書の下書き。
余白に赤ペンで、一言だけ書いてある。
「もう少し具体的に」。
どこをどう直せばいいのかは、どこにも書かれていません。
「で、具体的にって、何をどうすればいいの」。
そう思った人は、きっと少なくないはずです。
最初に浮かぶのは、たいてい言葉選びの話です。
もっときれいな表現に、もっと難しい言葉に。
辞書や類語辞典を開いた人もいるのではないでしょうか。
けれど、「抽象的」という指摘は、言葉の巧拙とはあまり関係がありません。
指摘の正体は、たいてい情報不足です。
文章の中に、事実がまだ足りていない状態を指しています。
「豊かな心を持っています」と書かれていても、読み手にはその子がどんな場面で何をしたのかが分かりません。
情報が足りないまま、結論だけが置かれている。
それが「抽象的」という印象の正体です。
つまり直すべきは、言葉のきれいさではありません。
そこに足りていない、具体的な事実のほうです。
きれいな言葉を削る作業ではなく、その言葉の代わりに何を見て何が起きたのかを足していく作業。
この違いを最初に押さえておくと、この先の直し方がぐっと分かりやすくなります。
指摘を受けたこと自体は、悪いことではありません。
書いた本人には見えている場面が、初めて読む相手にはまだ見えていない、それだけのことです。
書いている本人は、その言葉を書いた瞬間、頭の中で特定の出来事を思い浮かべています。
ところがその出来事は文章には書かれておらず、頭の中だけに残ったままになっています。
読み手に渡るのは言葉だけで、その裏にある出来事までは渡っていません。
だから直す作業でまずやるべきは、頭の中にある出来事を、文章の中に引っ張り出すことです。
表現をひねって難しく書き直す必要も、言葉数を増やす必要もありません。
むしろ短くていいので、具体的な事実を1つ足すほうが、指摘はすっと解消します。
この記事では、抽象的になりやすい言葉の傾向と、それを具体化していく直し方を、実例とあわせて見ていきます。
願書や志望理由書には、繰り返し出てくる言葉があります。
自立心、コミュニケーション能力、探究心。
どれも、意味そのものは間違っていません。
ただ、その言葉だけで文章が終わってしまうと、読み手には「誰にでも当てはまりそうな言葉」に見えてしまいます。
この判定ツールを作るとき、AIの文章と人間の文章を何十本も並べて読み比べました。
抽象語だけで終わっている文章には、共通する型があることに気づきました。
以下は、よく使われる抽象語と、それを言い換えるときの方向性です。
そのまま当てはめる例文集ではありません。
どちらの方向で場面を探せばいいか、その手がかりとして使ってください。
| よく使われる抽象語 | 置き換える方向 |
|---|---|
| 自立心がある | 一人でやろうとした場面や、手伝いを断った瞬間 |
| コミュニケーション能力が高い | 相手の表情や言葉を受けて、行動を変えた場面 |
| 探究心がある | 疑問に思ったことを、自分で確かめに行った場面 |
| 集中力がある | 声をかけても気づかないほど、何かに没頭していた場面 |
| 素直な性格 | 指摘されたことを、その場で受け止めて直した場面 |
| 向上心がある | できなかったことに、自分から工夫を加えた場面 |
| 社会性がある | 初めて会う人との距離の縮め方が変わった場面 |
| 表現力がある | 気持ちや考えを、言葉や絵で伝えようとした場面 |
| 柔軟性がある | 予定が変わったときに、自分なりに対応した場面 |
一覧の使い方は、まず自分の文章の中にある抽象語を探すことから始まります。
次に、その抽象語がどちらの方向の場面を指しているのかを確認し、実際に自分の子どもに当てはまる出来事を思い出していきます。
1つの抽象語に対して、思い出せる場面は1つで十分です。
無理に複数の場面を詰め込もうとすると、かえって文章は長くなり、読みにくくなります。
一覧に載っていない抽象語が自分の文章にある場合も、考え方は同じです。
その言葉を読んだとき、頭の中でどんな場面が浮かぶか。
一度、自分に問いかけてみてください。
場面が思い浮かべば、それを短く書き添えるだけで、同じように具体化できます。
反対に、場面がすぐに浮かばない言葉は、実はそれほど強い実感を伴わずに使ってしまっている言葉かもしれません。
ここでは、よく見られる抽象的な文章を、具体的な場面を足した文章に書き直す例を2つ紹介します。
例文はいずれも特定の家庭の実話ではなく、一般的なパターンとして作成したものです。
Before例は、それだけを読むと立派な内容に見えます。
けれど、実際にどんな場面があったのかは、読み手には伝わりません。
After例は、場面と結果の両方を入れることで、その子だけのエピソードとして読める文章に変わっています。
特別な出来事を新たに用意する必要はありません。
すでにあった出来事を、場面ごと思い出して言葉にするだけで十分です。
2つの例に共通しているのは、抽象語そのものを消してしまうのではなく、その後ろに場面を続けている点です。
「自立心があります」という言葉自体は残したまま、そのあとに具体的な朝の様子を添えることもできます。
言葉を全部入れ替えようとせず、足りない情報をあとから補うくらいの感覚で取り組むと、直す作業のハードルは下がります。
言い換えの方向性が分かっても、実際にどの場面を書けばいいか、すぐには思い浮かばないこともあります。
「そんな都合よく、エピソードなんて出てこない」。
そう感じる人も多いはずです。
特に、毎日一緒にいる家族ほど、当たり前になっている出来事ほど記憶に残りにくいものです。
ここでは、場面を思い出すための具体的な探し方をいくつか紹介します。
まずは、スマートフォンの写真アプリを、日付をさかのぼりながら見返す方法です。
何気なく撮った写真の中に、子どもが夢中になっていた瞬間や、誰かと関わっていた瞬間が残っていることがあります。
撮影日を手がかりに、その日に何があったかを思い出すきっかけになります。
それから、連絡帳や育児日記、園からのおたよりを見返す方法もあります。
先生が書いてくれた一言や、自分が残していた短いメモの中に、具体的な場面のヒントが残っていることがあります。
特別なことを書いていなくても、日付と一緒に短い出来事が記録されているだけで、記憶をたどる手がかりになります。
意外と見落としがちなのが、家族に聞いてみる方法です。
自分が見ていない場面を、配偶者や祖父母、きょうだいが覚えていることがあります。
送り迎えや習い事の付き添いなど、自分以外の家族が中心になっている時間帯の出来事は、聞いてみないと出てこないことが多いです。
視点を変えて、「うまくいった話」ではなく「困った出来事」から探す方法もあります。
成功した場面は印象が薄れやすい一方、困った場面や手こずった場面は記憶に残りやすい傾向があります。
「あのとき泣いていた」「あのとき困っていた」という記憶から遡ると、そこにどう対応したかという場面が思い出しやすくなります。
困った出来事をそのまま書く必要はなく、そこからどう変化したかまで含めて書くと、具体的で自然な文章になります。
最後のひとつは、地味ですが効きます。
きょうだいや同じ年頃の子と比べて考える方法です。
きょうだいがいる家庭では、「上の子のときはこうだったけれど、この子は違う」という違いの中に、その子らしい場面が見つかることがあります。
きょうだいがいない場合も、お友達や親戚の子と比べたときに気づいた違いから、場面を思い出せることがあります。
これらの方法に共通しているのは、記憶を頭の中だけで探そうとしないことです。
写真や記録、他の家族の記憶といった、自分の外側にある手がかりを使うことで、思い出せる場面の数は増えていきます。
一度に完璧な場面を探そうとせず、いくつか候補を出してから、いちばんその子らしいと感じるものを選ぶくらいの気持ちで探してみてください。
具体的な場面を足し終えたら、提出前に次の点を確認しておくと安心です。
一度にすべてを直そうとせず、抽象語が残っている箇所から順に見ていくと、負担は少なく進められます。
場面を足したあとは文章全体を見返し、情報が足りていた部分と、まだ言葉だけで終わっている部分が混ざっていないかを確認します。
これらは、一度で完璧に仕上げるための項目ではありません。
書く、確認する、直す。
この流れを数日かけて何度か繰り返すことで、文章は少しずつ具体的になっていきます。
時間を置いてから読み返すと、書いているときには気づかなかった「言葉だけで終わっている箇所」に気づきやすくなります。
「抽象的」という指摘は、直すべき場所を教えてくれるサインでもあります。
指摘そのものを気にしすぎず、足りていない情報を1つずつ補っていく作業だと捉えると、進めやすくなります。
赤ペンで「もう少し具体的に」と書かれたその余白に、今度は自分の言葉で、あの日の場面を書き足してみてください。
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