願書の「家庭の教育方針」欄で手が止まる保護者に向けて、立派な方針を新しく作らなくてよい理由から、日常の子育てを言葉にする手順、学校の方針との重ね方までを順番に解説します。
願書の「家庭の教育方針」という欄。
ペンを持ったまま、うちに方針なんてあっただろうか、と天井を見る夜があります。
何か特別な理念や、教育について語れる立派な言葉を用意しなければと身構えてしまう保護者は少なくありません。
書店に並ぶ教育書を読み込んだり、他の家庭がどう書いているかをネットで探したりしてから書き始めようとする方もいます。
けれど、学校がこの欄で確認しているのは、家庭が独自の教育論を持っているかどうかではありません。
子どもがどんな環境で育ってきたか。
家庭がどんな姿勢で子どもと向き合ってきたか。
学校側は、この欄に書かれた内容と、面接や日々の子どもの様子との間に大きなずれがないかを見ていると言われています。
言葉の巧みさよりも、書かれている内容が実際の家庭の様子と一致しているかどうか。
そちらのほうが重視されます。
また、家庭の教育方針と学校の教育方針がまったく同じである必要もありません。
方向性の一部が重なっていれば、学校生活の中で家庭と学校が同じ方向を向いて子どもを支えていけると伝わります。
多くの学校で、この欄は志望理由書ほど長い文章を書くスペースが用意されておらず、数行から十数行程度でまとめる形式です。
限られたスペースだからこそ、飾った言葉を並べるより、家庭の関わり方が一目で伝わる短い一文のほうが、読み手の印象に残りやすい。
学校側が本当に見たいのは、立派な教育論ではなく、日常の中でどんな声かけが交わされているかという具体的な手触りです。
この欄を、特別な思想を披露する場だと考えるのではなく、家庭の日常をそのまま伝える場だと捉え直すところから始めると、書きやすくなります。
なぜ新しく方針を作る必要がないのか。
次の章で、もう少し具体的に見ていきます。
「わが家に教育方針と呼べるものがあるだろうか」
教育方針欄を前にすると、そうつぶやきたくなる保護者は多いです。
けれど、教育方針は受験のために新しく作り出すものではありません。
すでに家庭で毎日行っていることの中に、方針と呼べるものは含まれています。
朝の身支度を自分でさせている。
食事の前に挨拶をする習慣がある。
約束を守れなかったときは、理由を一緒に考える。
どれも特別な教育論として意識してきたことではなく、日々の生活の中で自然に続けてきた関わり方かもしれません。
その関わり方に、あらためて言葉をつけていく作業。
それが、教育方針欄を埋める作業の正体です。
立派な言葉を外側から探してくる必要はなく、すでに家庭の中にあるものに気づき、それを言葉にするだけで十分です。
ゼロから考え出そうとするほど、どこかで聞いたことのあるような言葉に頼りたくなり、家庭らしさが薄れていきます。
教育書やインターネットに載っている立派な言葉を借りると、一見整った文章にはなります。
ただ、その言葉を選んだ理由を、自分たちでも説明しにくくなります。
反対に、家庭の中にすでにある関わり方から言葉を起こすと、多少表現が硬くても、なぜその方針を大切にしているのか、あとから聞かれても答えられる文章になります。
新しい方針を作るという意識は、いったん手放してみてください。
日常の中から方針を言葉にしていく具体的な手順を、次の章で見ていきます。
普段の子育てから教育方針を言葉にするには、4つの手順で進めると取り組みやすくなります。
まず、普段子どもに繰り返し言っている言葉を書き出してみます。
「自分で決めたことは最後までやろうね」「困っている人がいたら声をかけてみようね」。
何度も口にしている言葉を、できるだけ多く紙に書き出します。
それから、直近1か月で子どもを褒めた場面と、叱った場面をそれぞれ思い出します。
褒めた場面には家庭が大切にしていることが表れやすく、叱った場面には家庭が譲れないと感じていることが表れやすいものです。
意外と見落とすのが、書き出した言葉や場面に共通するものを一言にまとめる作業。
繰り返し伝えている言葉と、褒めた場面・叱った場面を並べてみると、共通して大事にしている軸が見えてくることがあります。
うまく一言にまとまらないときは、無理に美しい表現を探さず、「〇〇を大事にしているみたい」くらいのラフな言い方でいったん書き留めておくと、あとで整えやすくなります。
最後のひとつは地味です。
その一言を裏付ける場面を、1つ添えるだけ。
一言だけでは他の家庭の文章と見分けがつかなくなるため、実際にあった場面を添えることで、その家庭にしか書けない文章になります。
この4つの手順は、一度に完璧にこなそうとしなくても構いません。
思い出せる場面から書き出してみて、あとから順番を整理し直すやり方でも十分に進められます。
夫婦で別々に書き出してみると、同じ子どもの様子でも見ている場面が違っていることに気づき、より多くの材料が集まることもあります。
Before例は、方針として整ってはいますが、どの家庭にも当てはまりそうな言葉で終わっています。
After例は、朝の身支度という日常の一場面を添えるだけ。
それだけで、その家庭の関わり方が具体的に伝わる文章になります。
特別な出来事を用意する必要はなく、この4つの手順を順番にたどることが、いちばんの近道です。
書き出す場面は、大きな出来事である必要はまったくありません。
朝の身支度のような、毎日繰り返されているごく小さなやり取りのほうが、かえって家庭らしさが伝わりやすい場合も多くあります。
教育方針を一言にできたら、次はその内容と学校の教育方針との重なりを探します。
学校案内やウェブサイトに書かれている教育方針を読み、家庭で見つけた一言と近い言葉や考え方がないかを探してみます。
このとき注意したいのは、学校の言葉をそのまま借りて書かないことです。
学校の教育方針の文言をなぞっただけの文章では、家庭が本当にその方針を実践してきたのかが伝わりにくくなります。
重なりを見つけたら、学校の言葉ではなく家庭の日常の場面をそのまま書きます。
結果として、学校の方針と近い方向を向いていることが伝わればそれでいい。
例えば、学校が「自ら考え、行動する力を育む」ことを掲げているとします。
家庭で見つけた一言が「自分で決めたことは最後までやる」であれば、そこに重なりがあります。
このとき書くべきは「自ら考え行動する子に育てています」という言葉ではありません。
家庭で実際にあった、自分で決めて最後までやり遂げた場面です。
重なりが見つからない場合も、無理に学校の言葉に寄せて書き換える必要はありません。
家庭で実際に大切にしてきたことを、そのまま書くほうが、結果として学校側にも伝わりやすくなります。
重なりのある部分を無理に増やそうとして、家庭で実践していないことまで書き加えてしまうと、面接で話す内容との間に新たなずれが生まれてしまいます。
説明会や学校見学に参加できた場合は、そこで先生が話していた言葉や、在校生の様子から、方針が実際にどんな形で表れているかを確認しておくと、重なりを探しやすくなります。
参加できていない場合も、学校案内やウェブサイトに掲載されている在校生の声や、日々の活動を紹介する記事から、同じように手がかりを探せます。
「うちの言葉、学校の方針とちゃんと重なっているんだろうか」
そう客観的に見えにくいと感じる場合は、こうした点を確認できるチェックを使う方法もあります。
教育方針欄を書き終えたら、提出前に一度、時間を置いてから読み返してみてください。
書いている最中は気づきにくい借り物の言葉も、少し時間を置くと見つけやすくなります。
特に、家庭で見つけた一言と、それを裏付ける場面がしっかりつながっているかどうか。
これは時間を置いたあとのほうが、客観的に判断しやすくなります。
確認したいのは、次の5点です。
時間が許すなら、家族のもう一方にも読んでもらってください。
実際の家庭の様子と一致しているかを、確かめてもらうとよいでしょう。
もう一方の家族が読んだときに「そういえば、そんな場面あったね」と思い出せるようであれば、その一言と場面は、家庭の実感からずれていないはずです。
赤ペンの判定ルールを書いていて気づいたのは、人が実際に書いた文章ほど、こういう小さな場面がひとつ入っていることでした。
教育方針欄は、立派な理念を披露するための欄ではなく、家庭が日々どう子どもと向き合ってきたかを伝えるための欄です。
ペンを置く前に、もう一度だけ読み返してみてください。
そこに書かれているのは、今夜天井を見上げていたあなたが、もう知っていたことのはずです。
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