中学受験の願書にある「子どもの様子」欄で手が止まる保護者に向けて、欄の役割、家庭でしか見ていない場面の選び方、12歳の本人が読んでも違和感のない書き方までを順番に解説します。
食卓の上に広げた願書、ほとんどの欄はもう埋まっている。
志望理由の欄も、家庭の教育方針の欄も、昨夜のうちに書き終えた。
残っているのは、「お子さまの様子」「ご家庭での様子」といった、学校によって呼び方の違う、あの自由記述の欄だけ。
隣の部屋から、参考書のページをめくる音が聞こえてくる。
今年で12歳になる、その子の音。
「志望理由は書けたのに、この欄だけ何を書けばいいか分からない」
そう感じている保護者は、少なくないはずです。
この欄が置かれている理由を、まず考えてみます。
学力は、入試の点数でいやでも伝わります。
けれど、その点数の外側にある子どもの姿を伝えられる場所は、願書の中でもごくわずかです。
子どもの様子欄は、その点数では見えない部分のために置かれている、と考えると書きやすくなります。
家庭という、学校の先生も塾の先生も入り込めない場所での、力の抜けた姿。
それを知りたいから、この欄はある程度の自由度を持って作られています。
もうひとつ、考えておきたい点があります。
中学受験の願書は、小学校受験の願書とは違う前提の上に立っている、という点です。
小学校受験であれば、この欄はほぼ保護者だけの言葉で完結します。
けれど中学受験の子どもは、もう12歳。
自分で文章を読み、内容を理解し、場合によっては面接でその内容について直接聞かれる年齢です。
この「本人が読める」「本人が聞かれうる」という前提が、この欄の書き方を大きく左右します。
次の章から、その前提を踏まえて、何を書き、何を書かないほうがいいのかを順番に見ていきます。
子どもの様子欄を前にしたとき、最初に手が伸びやすいのが、これまでの実績です。
英検2級を取得、算数コンクールで入賞、生徒会長を務めた。
並べていくと、それらしい欄が埋まっていくような気がしてきます。
けれど、これらの情報の多くは、すでに他の欄や提出書類でカバーされています。
資格や実績を書く欄を別に設けている学校もあり、内容が重なってしまうと、この欄を使う意味は薄くなります。
実績の羅列で終わっている文章は、読み手からすると、どんな子どもなのかがかえって見えにくくなります。
算数コンクールで入賞した子どもが、家でどんな顔をして問題を解いているのか。
生徒会長を務めた子どもが、意見の対立する場面でどう振る舞っていたのか。
知りたいのは、その手前にある、素顔のほうです。
Before例は、実績を並べただけで終わっていて、どの子にも当てはまりそうな文章になっています。
After例は、実績そのものには触れていなくても、努力の過程にいる子どもの姿が伝わります。
実績を書いてはいけない、という話ではありません。
書くとしても、その実績の裏側にあった場面をひとつ添えるだけで、印象はまったく違うものになります。
数字や肩書きでは伝わらないものを、この欄でどう伝えるか。
次の章で、その具体的な選び方を見ていきます。
学校の先生が見ているのは、教室という場所での子どもです。
塾の先生が見ているのは、授業という時間の中での子どもです。
家庭で見ている子どもの姿は、そのどちらとも違います。
誰も見ていないところでの、素の姿。
それこそが、この欄でしか伝えられないものです。
場面を探すときは、大きな出来事を探そうとしなくて構いません。
むしろ、日常の中の小さな瞬間のほうが、家庭でしか見えない具体性を持っています。
塾の帰りの電車の中で、その日の模試の結果をぽつりぽつりと話し始める瞬間。
テスト返却の日、点数を見せる前に、表情でもう分かってしまう瞬間。
弟や妹の宿題を、自分の勉強の合間に見てあげている時間。
ゲームで負けたときに、しばらく黙り込んだあと、次の対戦を自分から誘ってくる様子。
こうした場面は、どれも特別な出来事ではありません。
けれど、その子だけの反応の仕方が、そこには必ず表れています。
この判定ツールを作るとき、AIが書いた文章と人が書いた文章を、何本も並べて読み比べました。
AIに「子どもの様子を書いて」と頼むと、たいてい返ってくるのは「明るく優しい性格で、誰とでも仲良くできます」といった、輪郭のない言葉でした。
場面が一つもないぶん、文章はきれいでも、どの子の話なのか最後まで分からないままでした。
家庭にしかない場面を選ぶコツは、直近1か月の生活を、時間帯で区切って振り返ることです。
朝の身支度、塾へ向かう車の中、夕食の時間、寝る前のひととき。
それぞれの時間に、思い出せる場面がひとつでもないか、探してみてください。
ここからが、中学受験の子どもの様子欄で、いちばん見落とされやすい部分です。
小学校受験と違い、中学受験の子どもは、願書の内容を自分で読むことができます。
提出前に、机の上に置いた控えへたまたま目を通してしまうこともあるでしょう。
面接のある学校なら、この欄に書いた内容から質問が生まれる可能性もあります。
「おうちの人は、あなたのことをこう書いているけれど、自分ではどう思う?」
そう聞かれたとき、答えるのは保護者ではなく、本人です。
だからこそ、この欄で気をつけたいのは、内容の良し悪しより先に、本人が読んで納得できるかどうかです。
「頑張り屋で、弱音を吐いたことが一度もありません」
書いた本人はよかれと思って書いた一文でも、子ども本人からすれば「え、そんなことないのに」と感じる場合があります。
実際より立派に見せようとした言葉ほど、本人との間にずれが生まれやすくなります。
Before例は、立派ではありますが、本人が読んだときに「そんなキャラじゃない」と感じてしまいそうな文章です。
After例は、落ち込む姿も含めて描いているぶん、本人が読んでも「まあ、そうかもしれない」とうなずける内容になっています。
弱さや不器用さを隠さずに書くことは、この欄では弱点にはなりません。
むしろ、本人が「これは自分だ」と思える文章のほうが、面接で聞かれたときにも自然に答えられます。
書き終えたら、可能であれば、本人に読んでもらう時間を一度作ってみてください。
恥ずかしがって「やめてよ」と言われることもありますが、そのひと言も、本人がどう受け止めたかを知る手がかりになります。
子どもの様子欄を書き終えたら、提出前にもう一度、次の点を確認してみてください。
これらは、書いた本人だけで見返していると、案外気づきにくいものです。
描いた場面に思い入れがあるほど、それが本人にとって自然かどうかの判断は難しくなります。
そんなときは、赤ペン願書ラボの無料チェッカーに貼り付けてみる手もあります。
抽象的な言葉が続いているところや、場面が見えにくいところに印がつきます。
このツールは、AIの利用を隠すための道具ではありません。
本人の姿が、本人の言葉として文章に残っているかを確かめるための、ただの手がかりです。
たとえば、こんな夜。
書き終えた欄をそっと見せると、12歳の子どもは黙って読み、しばらくしてから「まあ、当たってる」とだけ言って、自分の部屋に戻っていく。
その一言があれば、この欄はもう十分に書けています。
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