小学校受験の願書で、志望理由が「家から近い」「通いやすい」「兄姉が通っている」しか浮かばないときの書き方です。近いを毎日の場面に戻す方法と、学校に重ねる一文の選び方を、例文つきで整理しました。
願書の志望理由欄を前に、ペンが止まっている。
下書きの1行目には「貴校の教育理念に」まで書いて、そこから進まない。
正直なところ、決め手は何だったのか。
家から歩いて通える。
それが、いちばん大きかった。
「本当の理由は近いから、なんだけど」
「これを、そのまま書いていいのかな」
そう思って、検索窓に「小学校受験 志望理由 家から近い」と打つ。
出てくるのは、教育理念への共感を並べた立派な例文ばかり。
この記事は、そんな夜のための話です。
先に言っておくと、近いから選んだことは、恥ずかしいことではありません。
毎日通う場所なのだから、通学のしやすさは暮らしの大事な条件のひとつです。
ただ、「近いとだけ書けばよい」という話でもありません。
その中間にある書き方を、順に見ていきます。
通学時間を気にするのは、家庭だけではありません。
募集要項に通学時間の目安や通学区域が書かれている学校もあるくらいで、学校側も、毎日通えるかどうかは気にしています。
だから、「近い」「通いやすい」は嘘でも的外れでもありません。
ただし、事実は事実のままだと、読み手には「そうですか」で終わってしまうことがあります。
近いから、何が起きるのか。
近いから、その子の毎日がどう見えているのか。
そこまで書いて、はじめて理由として読めるようになります。
困るのは、ここで欄を埋めようとして、借り物の言葉に手が伸びるときです。
教育理念の言葉を並べる。
ChatGPTに「いい感じに」と頼んで、整った一般論をもらう。
文章はきれいになります。
けれど、その子の家の話が一行も入らない願書になる。
この判定ツールを作るとき、AIが書いた文と人が書いた文を読み比べました。
AIの文は、宛先の学校を入れ替えても、家庭を入れ替えても、そのまま通じてしまう。
人の文は、たいてい、どこかに小さな場面が入っていました。
「近い」を隠して立派な理由に取り替える必要はありません。
「近い」の下にある場面を、拾い上げるほうが近道です。
面接で「どうして本校を?」と聞かれたとき、借りた一般論の文では、続きの言葉が出てきにくいものです。
自分の家の場面なら、聞かれても、思い出しながら話せます。
「近い」を場面に戻すには、問いを少し変えてみます。
近い、で止まらずに、近いから何がある、と考える。
たとえば、こんな夜。
子どもを寝かせたあと、夫婦で「結局、なんでここなんだっけ」と話し始める。
思い出してみると、出てくる。
説明会の帰りに歩いてみた通学路。
信号待ちの間、前を歩いていた上級生が、小さな子の手をつないで渡っていたこと。
校門の前を通ると、毎朝、同じ時間に先生が立っていること。
そういうものが、近いからこそ、何度も目に入る。
場面は、だいたい次の3方向から探せます。
通学路のほうは、歩いて確かめられます。
休みの日に、一度だけ通学路を歩いてみてください。
足を止めたところに、書ける場面が落ちています。
放課後のほうは、暮らしの話です。
放課後に祖父母の家へ寄れること。
下の子の迎えに間に合うこと。
習い事を続けられること。
それは、学校を選ぶ理由であり、同時に、その家の毎日そのものです。
6年間のほうは、想像の話。
雨の朝に、傘をさして一緒に歩く姿。
2年生になった子が、ひとりで門をくぐる後ろ姿。
起きたことでなく、これから起きてほしいことでも、願書には書けます。
どれも、他の家庭の願書には、そのままは書けません。
上の子が在校している、兄や姉が通っている。
これも、志望理由として書きやすいようで、書きにくいものです。
「在校生の家庭として、貴校の教育に信頼を寄せております」と書くと、事実は伝わっても、その子の話ではなくなってしまう。
戻す先は、在校そのものでなく、家の中の場面です。
上の子が帰ってきて、玄関で、今日あったことを話す。
給食の話、図書室の話、先生の口ぐせのまね。
それを、下の子がじっと聞いている。
「ぼくも行く」と言ったのは、いつだったか。
運動会や学校行事に、家族で行ったときの、下の子の様子でもかまいません。
下の子が、上の子の背中をどう見ているか。
そこに、その子が学校を好きになった過程があります。
もうひとつ、兄姉枠のような優遇があるのかどうかは、学校ごとに違います。
志望理由の書き方とは別の話なので、そちらは募集要項で確認してください。
在校している事実を並べるより、家で聞こえている学校の声を書くほうが、下の子の願書になります。
場面が見つかったら、あとは学校との結び目です。
ここで、立派にしようとして、理念の言葉を何行も借りたくなります。
でも、1つで足ります。
募集要項、説明会、学校のサイトのどこかで、場面と重なる言葉をひとつだけ選ぶ。
たとえば、異なる学年の子が一緒に過ごす時間があると読んだ。
たとえば、登下校の約束事について、先生が話していた。
その一文と、自分の場面を並べます。
場面がひとつ、重なる一文がひとつ。
それで欄は足りることが多いです。
なお、字数や行数は、学校によって大きく違います。
欄が小さければ、場面を絞って、重なりは一文だけにします。
次の例は、創作です。
Beforeは、「近い」を「通いやすい環境」と言い換えて、あとは理念の言葉で埋めた形です。
どこの家庭の、どの子の話でもなくなっています。
Afterは、同じ家庭が、近いという事実の下にある場面に戻した形です。
通学路で見たもの、放課後の暮らし、学校に重ねる一文が、それぞれひとつずつ。
「近い」という言葉は、実は一度も出てきません。
けれど、読んだ人には、近いから何があるのかが伝わります。
書き終えたあとに、借りた言い回しが残っていないかを、一度だけ確かめておくと安心です。
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学校に合っているかどうかを判定するものではなく、合格を約束するものでもありません。
AIの利用を隠すための道具でもなく、あくまで、その文が家庭の言葉になっているかを見直す手がかりです。
欄が埋まったら、もう一度だけ、通学路を思い浮かべてみてください。
信号待ちの交差点。
向こう側に、上級生が小さな子の手を引いて渡っていく。
長女は、それを見て、何か言う。
志望理由は、「近いから」から始まったはずなのに、いつのまにか、その子の毎日の話になっている。
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