一度書いた願書に納得できず、全部書き直すべきか迷っている保護者に向けて、書き直す順番の決め方、直す価値の高い箇所の見分け方、材料不足か書き方の問題かの切り分け方をまとめました。
画面に、書き終えたはずの志望理由書が開いている。
カーソルは、本文の先頭に置いたまま動かない。
全選択して、消してしまおうか。
指がショートカットキーの上で止まる。
「なんか違う気がする。でも、どこが違うのか分からない」
そう感じて、いっそ全部消して一から書き直したくなる夜がある。
何日もかけて仕上げたはずなのに、読み返すたびに気になる箇所が増えていく。
家族に見せたら「悪くないと思うけど」と言われ、その「悪くない」が逆に引っかかる。
こういうとき、真っ先に浮かぶのは、全部消して最初から書き直すことです。
けれど、実際に手を動かす前に、確かめておきたいことがあります。
気になっているのは、文章全体でしょうか。
それとも、読み返すたびに同じ一箇所、あるいは二箇所に目が止まっているだけでしょうか。
「なんとなく気に入らない」という感覚は、実は全体の話ではなく、特定の一文や一段落に引っかかっているだけのことが少なくありません。
全体のうち、本当に気になっている割合はどのくらいか。
紙に印刷して、気になる箇所に線を引いてみると、思ったより範囲が狭いことも珍しくありません。
線を引いた範囲が一部にとどまるなら、全部書き直す必要はおそらくありません。
逆に、読み返すページのほとんどに線が引かれるなら、それは部分の修正ではなく、根本から考え直したほうが早いサインです。
この見極めをせずに全部消してしまうと、せっかく書けていた場面や一文まで、一緒に失ってしまうことになります。
線を引き終えたら、次に考えたいのは、どこから手をつけるかの順番です。
思いついた箇所から直していくと、時間ばかりかかって、肝心なところが後回しになりがちです。
順番を決める基準はひとつ。
直したときの効果の大きさと、直すのにかかる手間、そのバランスで並べることです。
その前に、ひとつだけ例外があります。
学校名の書き間違い、日付の誤り、前に書いた志望理由書を流用した際の消し忘れ。
こうした事実の誤りは、見つけた瞬間にその場で直してしまいます。
直す作業は一瞬で終わるのに、見落としたときの印象への影響は小さくありません。
順番を考えるまでもない、というわけです。
そのうえで、時間をかけてでもいちばん先に取りかかりたいのが、志望校とのつながりが書かれていない箇所です。
このズレは、読み手にいちばん伝わりやすい箇所です。
場面をひとつ思い出して足す手間はかかりますが、文章全体の印象がいちばん大きく変わるのもここです。
その次に来るのが、抽象的な言葉だけで終わっている一文です。
「思いやりがある」「主体性を持って行動する」というような言葉は、場面に置き換える作業が必要になる分、直すのに少し時間がかかります。
そして、優先順位としていちばん低いのが、語尾の癖です。
「〜と考えております」が何度も続いているような箇所は、気になり始めると止まらなくなりますが、直しても文章全体の印象が大きく変わるわけではありません。
範囲も文章全体に散らばっているため、直すのにかかる手間のわりに、効果は限られています。
この順番を知らないまま書き直しを始めると、語尾の細かい好みばかり直して、いちばん大事な志望校とのつながりが最後まで残ったまま、ということが起こります。
順番通りに直そうとしても、思うように進まないことがあります。
そういうときに確かめたいのが、材料が足りないのか、書き方の問題なのか、という切り分けです。
材料が足りないというのは、場面そのものが思い出せない状態です。
「この学校を選んだ理由、具体的に何があったんだっけ」
そう考えても、家族に聞いても、誰の記憶からも具体的な場面が出てこない。
これは書き方をいくら工夫しても解決しません。
一度パソコンから離れて、写真や連絡帳を見返す、塾や説明会で配られた資料をめくり直す、家族で「あの日どうだった」と話す時間を作る。
材料探しが先で、書き直しはそのあとです。
書き方の問題というのは、材料はあるのに、文章にすると輪郭がぼやけてしまう状態です。
家族に口頭で話してもらうと、表情豊かに、具体的なエピソードがすらすら出てくる。
なのに、それを文章にした途端、どこかよそよそしい言い回しに変わってしまう。
「話せば伝わるのに、なんで書くとこうなるんだろう」
これは材料の問題ではなく、話し言葉を文章に移すときの技術の問題です。
この判定ツールを作るとき、AIが書いた文章と人が書いた文章を並べて読み比べました。
材料が薄い文章と、書き方だけが硬い文章は、パッと見た印象は似ていても、直し方がまったく違います。
材料が薄い文章に、いくら言葉を整えても、場面は出てきません。
書き方が硬いだけの文章は、口で話した内容をそのまま書き起こすだけで、驚くほど印象が変わることがあります。
自分がいま向き合っているのがどちらなのか、これを取り違えたまま書き直しを始めると、時間をかけたわりに何も変わらない、ということになりがちです。
材料と書き方、どちらの問題かが分かったら、いよいよ差し替えの作業です。
ここで大事なのは、段落ごと消してから書き直すのではなく、元の文章を残したまま、気になる一文の横に新しい一文を並べて書いてみることです。
同じ画面の中に、元の文と直した文を並べておく。
読み比べて、どちらが自分たちの子どもらしいか、家族で確かめる。
気に入ったほうだけを残して、もう片方を消す。
この順番なら、直したつもりが実は前のほうがよかった、というときにも、すぐ元に戻せます。
このAfter例は、Beforeをまるごと消して一から書いたものではありません。
「落ち込まない」という一文だけを疑い、そこにあった実際の場面を思い出して差し替えた結果です。
全体は変えず、疑わしい一文だけを対象にする。
差し替えたら、その前後の文章とつながりがおかしくなっていないか、声に出して読んで確かめる。
これを、優先順位の高い箇所から順に、ひとつずつ繰り返していきます。
一気に全部を直そうとせず、今日は志望校とのつながりの一文だけ、明日は事実の誤りだけ、というふうに区切って進めても構いません。
差し替えを重ねるうちに、最初は全部書き直したかったはずの文章が、気づけば半分以上、元のままで残っていることもあります。
差し替えを重ねていくと、あるところで、直す箇所が見つからなくなってきます。
正確には、見つからなくなるというより、直す内容が言葉の好みの範囲に収まってくる、という感覚に近いかもしれません。
「もっと直せる気がする」
その気持ちが、完全に消えることはないかもしれません。
けれど、事実の誤りが消え、志望校とのつながりと抽象語の一文が場面に置き換わっているなら、そこから先は語尾の好みの範囲です。
好みの範囲まで手を入れ続けると、直すたびに印象が変わり、逆にどれが本当の完成形か分からなくなることもあります。
迷ったときは、直した文章を、書き直す前の元の文章と並べて読んでみてください。
元の文章に戻りたいと思う箇所が一つもなければ、それはもう十分に仕上がっているサインです。
自分たちだけで見ていると、この判断はなかなかつきにくいものです。
そんなときは、赤ペン願書ラボの無料セルフチェックツールに、直したあとの文章を貼り付けてみてください。
抽象語の密度や、場面の具体性が薄い箇所を確認でき、優先順位の高い箇所が本当に直っているかどうかの目安になります。
このツールは、AIの利用を隠すための道具ではありません。
直す場所を見つけ、直し終えたかどうかを確かめるための、ただの手がかりです。
たとえば、こんな夜。
差し替えを終えた文章を、最初に開いていたときの元の文章と並べて読み比べる。
どちらがうちの子の話か、もう迷わず選べる。
そう思えたら、書き直しはそこで終わりにしていい。
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