ChatGPTに願書の下書きを頼むとき、先に渡す材料を整理しました。場面・子どもの言葉・学校で見たもの・欄の条件をメモで渡す方法、添える条件、返ってきた下書きに渡していない話が混ざっていないかの確かめ方まで。
子どもが寝たあとの、リビング。
ノートパソコンの入力欄に、「小学校受験の願書の志望理由を、いい感じに書いてください」と打つ。
数秒で、きれいな文章が返ってくる。
「貴校の教育方針に深く共感し」で始まって、「豊かな心を育んでほしい」で終わる、整った数行。
読み返す。
間違いはない。
けれど、うちの子の話が、どこにも出てこない。
「もっと具体的に書いて、とお願いし直しても、また似たような文が返ってくる」
頼み方が悪いのかもしれない、と丁寧語に変えてみたり、「プロとして」と前置きを足してみたりする。
でも、返ってくる文章の顔つきは、あまり変わらない。
この記事は、そんな夜のための話です。
先に言ってしまうと、原因は言い回しにはあまりありません。
AIに渡した材料が、少なかったのです。
ChatGPTなどのAIは、渡された情報から続きを組み立てます。
「願書の志望理由を書いて」という一行だけだと、手元にあるのは、願書という種類の文書だという情報くらいです。
わが家の朝の様子も、子どもの口ぐせも、説明会で見た景色も、AIは知りません。
知らないところは、空白のままにはなりません。
多くの家庭に当てはまりそうな言葉で、すき間が埋められます。
「豊かな感性」「のびのびと成長」「教育方針への共感」。
どれも、悪い言葉ではありません。
ただ、どの家庭の願書に貼っても通じてしまう言葉でもあります。
この判定ツールを作るとき、AIが書いた文章と人が書いた文章を読み比べました。
AIの文章でいちばん目についたのは、いつ、どこで、誰が何を言ったかが書かれていない文でした。
人が書いた文章にあったのは、たいてい、その逆です。
「先月の土曜」「落ち葉」「こう言った」のような、小さな具体が、一文のどこかに入っている。
その差は、言い回しの上手い下手よりも、手元に材料があったかどうかで生まれている、と私は感じました。
次の例は、私が創作したものです。
材料なしで頼んだときの返答は、たとえばこうなります。
この文は、「長男」を「長女」に替えても、宛先を別の学校に替えても、そのまま読めてしまいます。
AIが怠けたわけではなく、入れる材料をもらっていないだけです。
だとすると、直すべきは頼み方の言い回しではなく、頼む前の準備のほうです。
では、何を渡せばいいのか。
家庭にしかない材料は、大きく4つに分けられます。
場面と言葉は、なるべく小さいほうが使えます。
「優しい子です」より、「先月の土曜、公園でベンチの端を空けて、知らない子に声をかけていた」のほうが、AIも言葉を選びやすくなります。
学校で見たものも同じです。
「教育理念に感銘を受けた」ではなく、「廊下に、子どもが描いた絵が低い位置に貼ってあった」のような、目に映った景色を書きます。
欄の条件は、地味ですが効きます。
設問文をそのまま貼れば、AIは問いに答える形で組み立てます。
字数を伝えれば、欄に収まる長さで返ってきます。
メモの書き方に、決まりはありません。
箇条書きでも、走り書きでも、話し言葉のままでもかまいません。
「えっと、土曜に公園で、落ち葉をずっと並べてて」くらいの崩れた書き方で、十分です。
きれいに整えようとすると、その過程で、具体がどんどん削れていきます。
整えるのは、AIの仕事に回してしまいましょう。
「メモなんて、ほとんど書くことがない」
そう思ったときは、先月から今月にかけての、子どもの一言を3つだけ思い出してみてください。
願書に使えるかどうかは、そのあとで決めればよいことです。
実際に渡す文面を、ひとつ作ってみます。
これも創作の例です。
小学校受験の願書、志望理由の欄に向けた依頼を想定しています。
まず、材料メモ。
材料メモ:欄の設問は「本校を志望する理由と、ご家庭の教育方針をお書きください」で、200字以内、手書き。
先月の土曜、公園で長男が拾った落ち葉を並べて「これ、ぎざぎざの数がちがう」と言っていた。
長男は「なんで」が口ぐせ。
説明会の帰りに、廊下に子どもの観察ノートが貼ってあるのを見た。
そのノートを見て、長男の「なんで」を書きとめられる場所だと思った。
続けて、依頼文。
依頼文:上の材料メモだけを使って、志望理由の下書きを200字以内で書いてください。
メモに書いていないことは足さないでください。
「豊かな心」「のびのびと」のような抽象的な言葉でまとめず、場面と子どもの言葉をそのまま残してください。
メモは、決して長くありません。
依頼文のほうも、やっていることは三つだけです。
頼み方を工夫したというより、材料と条件をそのまま渡しただけです。
依頼文に添える条件は、次の3つが基本になります。
このうち、いちばん効くのは「書いていないことを足さない」です。
この一文がないと、AIは文章を長くするために、ありそうなエピソードを自分で作ってしまうことがあります。
材料を渡したときの返答は、たとえばこうなります。
Beforeと比べると、同じ子の話なのに、読んだあとに残るものが違います。
落ち葉を並べる後ろ姿が、初めて読む人の頭にも浮かぶかどうか。
ただ、返ってきた文章に、渡していない話がこっそり混ざっていないか、自分の目だけで見分けるのは、思いのほか難しいものです。
下書きが返ってきたら、読んで「いい文章だな」と思う前に、確かめることがあります。
材料メモと、返ってきた文章を、並べて見ることです。
メモに書いていない事実が、文章の中に入っていないか。
たとえば、メモには「公園」としか書いていないのに、「毎週のように公園へ通い」と書かれている。
あるいは、「廊下に観察ノートが貼ってあった」と渡したのに、「先生方が熱心に指導されている姿に感銘を受け」と、見ていない場面が足されている。
こうした一文は、文章としてはなめらかなので、読み流してしまいやすいものです。
確かめるときは、メモの1行ごとに、文章のどこに使われたかを目で追ってみます。
反対に、文章の1文ごとに、メモのどこから来たのかを探します。
探しても見つからない文があれば、それは渡していない話です。
事実として合っているなら残し、合っていないなら削るか、本当にあったことに書き換えます。
もうひとつ、「豊かな」「のびのび」のような、耳ざわりのいい抽象語が戻ってきていないかも見ておきたいところです。
条件に書いたつもりでも、結びの一文などに、すっと紛れ込むことがあります。
そこは、メモの場面に差し替えます。
子どもの言葉も、見ておきたいところ。
「ぎざぎざの数がちがう」が「葉の形の違いに気づき」に整えられていたら、言ったままの形に戻します。
返ってきた文章を、どこまで自分の言葉に直すか。
声に出して読んで引っかかる文をどう変えるか。
そちらの手順は、別の記事「願書をAIで書くとどうなる?ChatGPT下書きの上手な使い方」にまとめています。
この記事では、あくまで頼む前の準備に話を絞ります。
ただ、材料を渡しても、AIにありがちな言い回しは、少しは残ります。
それが残っているかどうかは、書いた本人ほど気づきにくいところです。
材料を渡すと言っても、何もかもを入力する必要はありません。
子どもの氏名、園名、住所のような情報は、AIに渡さなくても下書きは作れます。
「長男」「園」「近所の公園」のように置き換えて渡せば足りますし、本番の用紙に書き写す段階で、元の名前に戻せばよいだけです。
もうひとつ、確かめておきたいことがあります。
出願先がAIの使用について規定を設けている場合は、その規定に従ってください。
募集要項や出願の案内に書かれていることがあるので、頼む前に一度、目を通しておくと安心です。
AIを使うと決めた家庭に向けて、この記事を書きました。
使うかどうかを決めるのも、どこまで使うかを決めるのも、出願先の案内と、ご家庭の判断です。
さて、材料メモを3行だけ書いてみる夜に戻ります。
入力欄の一番上に、メモを貼る。
その下に、「メモに書いていないことは足さないでください」と、一行。
送信ボタンを押す前に、もう一度、メモの中の子どもの言葉を読み返す。
「これ、ぎざぎざの数がちがう」
その一言が、そのまま次の画面に出てくるかどうかを、待っている。
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